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製作スタッフの記録

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2015.12.28
<リレーコラム:2>CM企画(ディレクター:今村直樹)

こんにちは。いちご煮CMプロジェクトです。

さて、早速ですがマニアの間で好評?の「リレーコラム」。

このリレーコラムでは、いちご煮CMの企画/制作の中心にいた方々がどのようにしてこのプロジェクトに入っていったのか、そしてあの映像の企画はどのようにして生まれたのか、といった点に注目して、中にいた人達自らが書き上げて下さっております。

ということで、前回の関橋さんに引き続き…今回はCMディレクターの「今村直樹」さん。


※上写真:左側がが今村直樹さん。今村さんについてのご紹介は、こちらの過去記事から。

http://www.kakunoya.co.jp/ichigoni/cmpj/category/151026_231934


今村さんからは、企画が生まれるまでを書いていただきました。これを読むことで、映像企画が生まれる過程が垣間見えて、思わず「ほほーっ」って唸ってしまうかも?

それでは、どうぞ!


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こんにちは。CMディレクターの今村直樹です。

今回は、いちご煮のCM企画が、どのようにしてできたかをお話ししてみたいと思います。




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 「CMは、映像と言葉と音、3つの要素があって、そのアイデアがうまく噛み合った時がアイデアの生まれた時。頭の中でカチッと音がするよ。そこまでがんばって企画しなさい。

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この言葉は、大学のCMの企画発想を教える授業で、私がいつも学生に言うことです。



そして、それを地でいったのが、今回のいちご煮CMの企画でした。


なにしろ、ある瞬間、それまで悶々と頭の中を駆け巡っていたアイデアが、カチッと組み合わさり、あの企画が生まれたのですから。時間にして、5秒。

いや、マジで。



その「ある瞬間」とは、今回のクリエイティブディレクターである関橋英作さんの「スープ」という言葉に出会った時です。




・・・?!




いや、待てよ。



その「ある瞬間」に至る何ヶ月もの間、ぼくは関橋さんの仕掛ける周到なマジックにかかっていたのかもしれません。
(詳しくは、関橋さんの前回のリレーコラム「八戸マジック」参照)

「八戸マジック」:クリエイティブ・ディレクター 関橋英作



・・・・・




CMができあがる一年以上も前、まずは、八戸を訪ねました。


到着したのは、夜。漁師の舌に鍛えられた八戸料理を堪能しました。もちろん、いちご煮なる、不思議なネーミングのお吸い物も初体験。 


野生(素材)と洗練(調理)の絶妙なマッチングに、驚きもすれば、ちょっと拍子抜けもした記憶があります。

どんな味だろう?と意気込んで口に入れた瞬間、サラッと自然に、やさしい味が胃袋に落ちていく。そんな感じ。


そして、昭和の匂いがする路地と、いまどきめずらしい深夜まで続く街のにぎわい。

一瞬で、八戸の虜となっていました。

(上写真:今村さん御用達の場所:プリンスにて、マスター・PJメンバーと)

翌朝からの缶詰工場見学では、もうカルチャーショック!


たまたま見たのは、鯖缶の仕込みだったのですが、素材の鮮度と味付けの究極のシンプルさに、驚愕!



「缶の中で、時間が調理するんです」


という缶詰工場を案内してくださった方の言葉に、頭の中がクラクラしました。


ぼくは知らなかったんだ。缶詰のことを、なにも。


ここで、まんまと缶詰の虜になってしまいました。




 



そして、種差海岸の風景を見させていただきました。


狭いエリアの中には、ウミネコが群れ飛ぶ蕪島神社(先頃、不幸にも火災により焼失してしまいましたが)から始まって、切り立った岩場もあれば、緩やかに弧を描く浜もあれば、南仏を思わせる松林や緑の丘に立つ灯台もあります。


どんな企画も、どんと来い。そう言っているかのようなオリジナルな風景とバリエーションの多さです。


そうしていちご煮のCM企画を考えることとなったワケです。


しかし、それから半年以上もの間、CMのアイデアは一向に浮かんできませんでした。


いちご煮なる缶詰の、一体、何を伝えたらいいのだろう?


地元では知らない人のいない製品。


20年もの間、テレビで流されてきたという王道のCM


ただ、今回の企画を考えるにあたって、ゆるぎないひとつの思いがありました。

 



詰め込む情報が多すぎて、あるいは、多くの人の思惑が入り込みすぎて、複雑になってしまった「今」のCMとは、逆のことをしたい。


シンプルで力強い、それでいて洗練された表現にしたい。




・・・・・しかし…。



時には風景に、ある時は漁師に、またある時は八戸という土地柄に。


イメージは、あっちに引っ張られ、こっちに引き戻されで、なかなか実を結びません。



 



そんな時、「ある瞬間」はこんな風にやってきました…。



 

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今回のクリエイティブディレクター・関橋英作さんは、いまぼくが勤める大学の同僚。

しかも、たまたま研究室はとなり同士。


「コンコン。」


ドアをノックして、関橋さんが入ってきました。


そして、「これ、どうかな?」と渡された紙の中に、こんな言葉がありました。

 



スープ。



 



”スープ!?


~~~~~



伝統的な郷土料理を、一気にいまに引きつける言葉の力がありました。



まさに、野生と洗練のマッチングです。


大好きな辰巳芳子さんの本『あなたのために』、そしてスープという言葉の深さを思いました。

※辰巳芳子さん「あなたのために」参考記事
http://blog.goo.ne.jp/0390_2006/e/b46f565e4e70c5da81fd4d305eeddfef


それは、食物が人にくれる、もっとも古くてやさしい滋養のカタチです。

 



そうだ、男がいちご煮の入った椀を持って、ただ海を見て立っていればいいな。


お椀は、伝統的な漆塗りではなく、モダンなものがいい。

そういえば、能登の塗師・赤木明登さんが前に教えてくれた白漆はどうだろう?
※赤城明登さん:白漆参考
http://www.kagure.jp/14436/


お椀を持って立つ人は、田中泯さんだ。いや、佇まいの美しさで、泯さんをおいて他にない。




音楽は…、海に思いを託した歌にしよう。そう、畠山美由紀さんの『わが美しき故郷よ』のように。


・・・・・


スープという言葉が、おそらくバラバラに浮かんでいたイメージを一気にひとつに結び付けてくれました。

時間にして、5秒。いや、本当なんですよ。



 



ただ、正確には、そこでハタと考えました。



企画があまりにもストレートすぎるかもしれない。

何かひとつ、あざとさやクセのようなものが欲しい。


しばらく考えて出てきたのが、CMの最初と最後にある「なが〜いフォーカス・イン」、ピンボケから徐々にピントを合わせていく撮影方法でした。



 

https://www.youtube.com/watch?v=9CbG_BxPNdg




どうでしょう?



いちご煮の持つ、野生と洗練のマッチングは、出来上がったCMに表現されたでしょうか?